月光の庭
後はよく聞き取れない。
そういえば、ここは堀田(ほつた)薫(かをる)の通るいつもの通りではない。
ただふらっと入り込んだ道だった。
彼は車のキーを紛失し、いつもの駅、いつもの道順を避けて通っていた。
他人からすれば実にしょうもない意地だった。
気ままになっていつもの愛車の通れない道を辿ってみたくなった。
キーのことはもちろん警察にも届けたし、会社の事務局にも届けた。
しかし、出社したときにあったものが、帰りの道で見つかるはずがない。
真夏のことだ、夕方とはいえ額にも、背広を脱いだ背中にも、汗が伝う。