月光の庭
誰の目が光っているわけでもない。
迷わずネクタイを解いた。ひゅっと呼吸が楽になり、生白い首筋に風を感じる。
外回りばかりで首から上は陽に焼けている。手の甲もだ。
三十度越えの湿度八十八%では頭がどうかしてしまいそうだ。
しかしそうやって少しずつ自分を自由にしていって、彼はようやくまわりを見渡す余裕ができた。
「ここは……まてよ、見覚えがあるはずなんだ。ここにあった木は」
国で真っ先に電線が地中に埋められたはずだ。
並木も背が高くなった。
ああ、やっぱりか。ここにあるのは別の木だ。