僕から自由を奪った貴方に、僕と同じ痛みを。【BL】
金髪の少年──アイディールが眠りに落ちるまで、そう時間は掛からなかった。
指通りの良い金色をゆっくり撫でる、そんな仕草に慣れてしまった自分に、男は嘲笑を浮かべる。
いつまでもその寝顔を見ていたかったが、夜はまだ長い。
少年を起こさぬようゆっくりベッドから降りた男は、そっと部屋から抜け出す。
住み慣れた古城の廊下は、明かりが灯されていなくても何ら困ることは無い。
全てが手に取るように分かる。
暗闇の中を進む彼は、自分の執務室の前で恭しく頭を下げる影に気付き、声を掛けた。
「待たせたか」
「いえ、時間通りです」
執務室は蝋燭の仄暗い明かりに照らし出され、揺らめく炎に男の影も揺れる。
「薬ならそこに用意してある。好きなだけ持って行け」
男が指さした先には小さなテーブルがあり、その上に赤い錠剤が詰められた小瓶が幾つも並んでいる。
「お代は?」
「お前の翅一枚で二本くれてやる」
窓辺に立ち、月明かりを浴びる男は、ニヤと笑みを浮かべた。
端正な顔立ちが顕わになり、意地の悪い笑みすら板に付いて見えてしまう。
「……金貨にしなかったことを、後で後悔しますよ。ラディアトラスト卿」
そう呼ばれることを好まない彼──ラディアに、影の主はわざと言葉を突き付けた。