幕末異聞―弐―
「褒めすぎだ」
頭を下げる楓を尻目に、胡坐をかいた土方が悪態をつく。そのお陰で、楓の火照った顔は、一瞬で常温に戻った。
「いやいやそんな事はないぞ歳。お前だって、赤城君がいなければ、もっと時間をかけて面倒な調査方法を考えなくてはいけなかったのであろう?」
「そうだそうだ」
近藤の援護に楓は調子付く。
「ふんっ。こんな奴いなくたって俺ならすぐに新しいいい方法を思いついたはずだ!」
明らかに不利になった土方だが、ここは“バラガキ”と呼ばれた男。簡単には認めない。
「…あんた恥ずかしくないんか?!うちがこうやって太夫の格好して情報集めて来てんのは事実なんやぞ?!!少しくらい感謝しろや!!」
「うるせえ!!それだけの報酬は出してんだ!感謝もクソもあるか馬鹿!!」
「あーッ!馬鹿って言いよったッ!!喧嘩の才しかないあんたに言われたないわボケ!!!」
段々熱の上がっていく口論に、楓も土方も片膝を立て、いつでも殴りかかれる体勢になっていた。
口を挟む余裕もない二人の喧嘩に近藤は首をうな垂れて困り果てている。
「これ見てみい!!あんたがガキみたいな態度やから局長泣いてまったやろ?!」
「馬鹿野郎ッ!お前ェ三十近くの男がめそめそ泣くわけねーだろ!」
「…いや、泣きそうだよ」
近藤は、目頭に手を当てて、疲労で何重にもなった目を擦る。流石に、ここまで元気のない近藤は珍しい。楓と土方は、お互いを牽制しながら同時に立てた膝を静かに折り曲げた。