隠す人


「どうだ、二宮の様子は」
一島重工本社にやって来た原田刑事が、香港カポックに声をかける。

「原田さん、私こっち!」

めがねマスクの掃除婦が、周囲に気づかれないように手を振った。

「小岩さんに、衣装借りたんですよ。で。フツーに仕事してます、彼」
マスクを下にずらすと、それは西刑事。
そばの銅像を無駄に磨きながら、報告を続ける。

「そうか。まぁ、無事で良かった」
睡眠薬を盛ったことへのお返しは、また今度だ。

「鑑識の黒岩さんからは、何だったんですか」

「西。その銅像にあまり時間をかけてると、なんか変態みたいだ」
原田刑事の鋭敏な判断で、二人は隣の香港カポックの葉っぱを一枚ずつ丁寧に拭き始めた。
葉っぱはたくさんあるから、いい時間稼ぎになる。

「遺体に残された銃痕の、入射角度のことだったよ」

「入射角度?」

「弾が体に当たってる、角度のことだよ。それを調べると、撃たれたときのガイシャの状況がある程度推察できる」

「ふぅん、そうなんだ」

原田刑事は、眉間に皺を寄せた。
もともと濃い顔の各パーツが真ん中に集められ、濃さをさらに増している。香港カポックを拭く単純作業には、全く似つかわしくない表情だ。

「その入射角度が、6発とも、ほぼ同じ角度・・・体に対して、直角に入ってるんだ」

「・・・へぇ?」
原田刑事の言葉の真意をつかみ損ねて、西刑事は小首をかしげる。

「それが、どうかしましたか」

「お前、そんなことも分からないのか」

原田刑事が突然、指鉄砲で西刑事を撃った。

「バン!」


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