雪花-YUKIBANA-
僕の腕の中で彼女がつぶやいた言葉。
最近になってよく思い出す。
――『別の場所にいるときも、会えなかったときも。
私は記憶の中から拓人を見つけだして、何度でも恋しちゃうんだ……』
僕はまぎれもなく桜子に焦がれていた。
会いたい。
その想いは痛みというはっきりした形で、僕の胸を内側から突き破ろうとした。
叔父もマユミも他の人間も、もうあきらめろと僕に言った。
そんな中でコバは――コバだけは、僕の背中を押してくれていた。
「これで高校の同級生は全滅っすね」
キュッキュッ、とリスの鳴き声のような音を立てて、コバはマジックペンを滑らせる。
名簿に引かれた無数の黒線は、僕たちの落胆の足跡だ。
「ああー、どこ行っちゃったんでしょうね、桜子ちゃん。こうなりゃ中学時代の友人もあたってみます?」
用のなくなった名簿をひらひらさせて、コバが言った。
「うーん。中学で仲よかった友達は、高校もほとんど同じだって聞いたことあるからな。
あんまり期待できないかも」
「マジっすか」
コバは苦い表情をして、街路樹のイチョウの木にドスンと背中を預ける。
黄色く染まり始めた扇形の葉っぱが、彼のボウズ頭の上で揺れた。