雪花-YUKIBANA-
「夫婦ふたりでこの店を始めたんですけどね。
どうやら僕は中華鍋を振るよりも、コトコトと煮物を炊く方が性に合ってるみたいで」
いつもあの調子でチクチク言われてます、と店長は苦笑する。
けれどどこか楽しそうだった。
目尻の笑いジワがそれを物語っていた。
「あの……」
僕は言った。
「茄子田楽、すごく美味しいですね」
店長は「ああ」という表情で頭を掻く。
「これね、以前うちで働いてた女の子からコツを教わったんです。
恥ずかしながら、こっちの煮物も」
「……」
「すごくいい子だったんですけど、突然来なくなって、それっきりで。
今頃どうしてるんでしょうね。
僕に和食を教えてくれるとき、よく“これは恋人の好物なの”って嬉しそうに言ってました」