雪花-YUKIBANA-
「で、あんたらはあれから、恋に発展したわけ?」
義広はまっすぐに前を向いたまま言った。
「……一応」
「そっか、やっぱりな。けど今は一緒に住んでないんだ?」
「僕が、距離を置きたいって言ったんです」
義広は言葉を止めて、僕の方を向く。
「その日の夜に、彼女は出て行きました」
「……」
しばらく進むと、ある病室の前で義広は立ち止まった。
入り口に名前はなく、本来なら空き部屋であることがわかる。
「ここに、桜子ちゃんが寝てるんだ」
予想していた言葉なのに心臓が跳ねた。
ドアにはめられた磨りガラスの窓を、じっと見つめる。
この向こうに……このドアの向こうに桜子がいる。
そっとノブに手を伸ばす。
扉が開く手ごたえが、わずかに右手に伝わった。
「――ちょっと待った」
義広がいきなり僕の手首をつかんだ。