雪花-YUKIBANA-
「おかしな冗談言うなよ」

「冗談じゃなくて素朴な疑問よ」

「ありえないな。職場でムラムラするなんて」

「どうして?同じ建物の中で、裸の男女があんな事やこんな事してるのに」


いったいどんな事を想像しているんだろう。


桜子は、2時間ドラマの刑事が容疑者を問いつめるときのような、
疑いをちらつかせた目でこっちを見ている。


僕はため息をついて、「たとえば」と言った。


「よっぽど俺の好みの女の子が働いてたら、まぁそれなりに想像しちゃうかもね」

「拓人の好みって?」

「誰かさんと違ってグラマーで、タバコがよく似合って、朝は優しく起こしてくれるような大人の女性」

「……ふーん」


桜子が頬をふくらましてブスッとする。


その子供みたいな表情に笑いをこらえながら、
僕は「ごちそうさま」と席を立った。


「拓人って時々失礼だよねー」


キッチンで食器を洗う僕の背後から、拗ねたような声がする。


「私だって、流行らない風俗店の店長してるような男の人はタイプじゃないもん」


「はいはい」


「卒業して社会人になったら、とびっきり素敵な彼氏を見つけるんだから。
さわやかで、意地悪なこと言わなくて、スポーツジムのインストラクターとかしてるような人」


「はいはい」
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