月と太陽の事件簿15/人形はなぜ捨てられる
「どうしたの」

「思ったんだけどさ」

達郎は腕組みをした。

「寝たきりの父親を残して店に出るって、おかしくないか?」

達郎の疑問はもっともだった。

息子の哲夫か、妻の光子が残って介護にあたるというのが普通だろう。

だがN県警ではすでに、その件について息子夫婦から話を訊いていた。

それによると、鳥海広義は寝たきりの体になったことを、ずいぶん申し訳なく思っていたという。

「迷惑かけたくないから放っておいてくれ、なんて無茶なことも言ってたみたい」

そして哲夫や光子のいずれかが自宅に残り、自分の介護にあたることを、ひどく嫌っていた。

「なんでそんな事を嫌がったんだ?」

「息子の哲夫いわく、『父は母と二人三脚で店を切り盛りしてきたからでしょう』とのことよ」

つまり、店に出る時は、夫婦一緒でなければならない。

そう思い込んでいたというのだ。

「験かつぎみたいなもんか。商売人の心理としては、ある話かもな」

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