月と太陽の事件簿15/人形はなぜ捨てられる
そのためには、部屋の空気は常に入れ替えなければならない。

衣服を毎日着替えさせ、身体もこまめに拭いてやらねばならない。

「鳥海広義の部屋の写真です」

北島警視は捜査資料の中から数枚の写真を取り出して、あたしたちの前に広げた。

部屋は6畳ほどの広さの和室だった。

エアコンにやや小振りの和箪笥(たんす)と書き物机、布団があるだけのシンプルな部屋。

しかし窓から入る陽射しは部屋の中を明るく照らし、部屋は清潔感に満ちていた。

あたしはようやく合点がいった。

広義は、息子夫婦にとても大切に扱われていたのだ。

だから部屋は無臭で光があふれ、清潔感に満ちていたのだ。

「この事から私どもは、息子夫婦が保険金殺人を企てたとは、考えにくくなってしまいました」

首筋をかく北島警視に、あたしは問い掛けた。

「息子夫婦のアリバイはどうなっているんですか?」

鳥海広義の死亡推定時刻は7日午後10時から、8日の午前0時にかけて。

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