50代のビキニ
ヌガー先生の情熱
私の短大は小高い丘の上にある。
ピンクや薄紫のコスモスが揺れている。
開け放たれた大きな窓。
申し分のない爽やかな風。
頬に心地好い。
ランチの後、乙女のお腹は満たされ…。
その日、英文科の午後一番の授業は音声学。
要するに発音の勉強。
本日のメインはrとlの違い。
「ヌガー」だった。
「ヌガー」って何?
先生は、イギリスで食べた美味しい「ヌガー」の話を延々と話される。
どんなに美味しいか!
聞いている私は涎が出そうになる。
鳥取の片田舎で育った私、興味津々!
憧れの外国の「ヌガー」とやらを食べてみたい!
後に、神戸に住んでいた従兄弟が送ってくれたお菓子の詰め合わせに「ヌガー」なるものが入っていた。
キャラメルをしつこくしたようなねばっこい味。
正に「ヌガーなのである。
夢にまで見たヌガーが、
はっきり言って、
ガクッ!
期待外れ!
甘ったるい!
先生は、田舎娘の私達にとって、イギリス紳士も同然。
スマートでカッコイイ、初老の素敵な人だった。
眼鏡を掛けていた。
限りなく優しいお顔。
だけど、授業は満腹で、ただえさえ眠い昼下がり。
「ア~ル」 「エ~ル」
先生の発音を聞いているだけで眠りの森に吸い込まれそう。
必死に睡魔と戦う。
指されて、質問されることもないので眠りは、頂点を目指す。
2年間、しっかり勉強した!?
卒業して直ぐに噂を聞いた。
な、 なんと、ヌガー先生が私のクラスの可愛い女の子と結婚したという。
えっ、えー?
ハタチの長い黒髪が美しい
大きな瞳の愛くるしい乙女と推定70才前後のおじさんが結婚したと言うのだ!!
衝撃とは
こういう事を言うのだろう。
いつの間に、ヌガー先生は…。
彼女は一番前の席に座っていた。
後部に居並ぶ私達がコックリ、コックリしている間に…。
ヌガー先生は、コックリも出来ない場所にいた可愛い彼女に「ヌガ~、ヌガ~」と愛の言葉を囁いていたのである。
若干、20才の私は飛び上がらんばかり! こんなことってあり~!?
恐るべし、アッパレなヌガー先生!
今では、乙女の心をわしづかみにした先生をステキー!と思う。
年なんか関係ない!
この人と思ったら、即捕まえるべし。
躊躇していたら永遠にこの恋は去って行くのだ。
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