生きる理由は何ですか?
ならば何故道を変えるのか。自分でも分からない。いや、分かっているが説明が出来ないというのが正しい。
例えば嫌なことがあり何かを壊したとして、何故壊したかを問われても嫌なことがありむしゃくしゃしてたとしか答えられないのと同じだ。
正解だが正解ではない。理由はそれだけではないのにそれしか言えない。
だから違うのに責められても言えずに余計にムシャクシャしたり迷いが生ずる。
仕方がないのだ。全ての感情を人に伝えることなど出来ないのだから。

「おい、伊藤。何ぼーっとしてるんだ、さっさとこれを運べ」
いきなりの声に驚き思わず肩が跳ねた。
ああ、そういえば今は仕事中だった。
先輩の声に無意識に眉を寄せてしまった僕は黙って示された床に積まれたダンボールを2ケース持ち上げ、隣に並ぶ籠車へと積む。
それを数回繰り返し籠車に乗り切らなくなるとを引いて積み荷台のある場所へと運んで行く。
あとはフォークリフトに任せまた戻り積み上げて籠車を運ぶ。
僕の仕事は単純作業の繰り返しだ。
効率が悪く感じるが順番が決まっている為にダンボールを全て積んでから運ぶのは間違いの元になるため禁止されていた。
面倒だがやるしかない。
時には空き箱をひたすら潰す日もある。
中身は他の作業場で仕分けられているそうだ。ダンボールの空き箱だけが大量に置いて行かれる。
もう一つの仕事は解体だ。
機械を解体し部品を仕分けて流す。
再利用する為に使えるか使えないか判断し分けていくのだが僕はまだ新人な為にこれは許されていない。

「伊藤君、ちょっと話しがあるんだけど今平気かな?」

作業中、聞こえた声に振り返るとそこには工場長が立っていた。
呼ばれたことより名前を知っていたことに驚いてしまう。
何せ何百人と社員がいる中で一番新人な僕だ。覚えてない方が普通というもの。
そんなことを考えながらついいて来るように示され僕は頷き歩き出す。

―嫌な予感がした。


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