あたしと彼と白いキャンバス
また階段をのぼっていく。


先頭の新太郎先輩が志乃の右手を引き、

志乃は背中を丸めて震え、

あたしは志乃の横顔を見ていた。



言うべき言葉はなんだろう?


怒ってないよ、とか?

許すよ、とか?


浮かぶ言葉は真実だけど薄っぺらに思えて、口から出せずに消えていく。




再び鉄の扉の向こうに辿り着いた、そのとき。

突然足が麻痺したように、志乃はがくりと床に座り込んだ。


「…志乃?」

「――ごめんなさい」


それは風にかき消されそうな小さな小さな声音で。
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