~LOVE GAME~


辺りは夕日が照らし出していて、この小さな遊園地も閉園のアナウンスが流れ始める。
周りもぞろぞろと帰路につき始めていた。

「……帰ろうか」

貴島君は小さく微笑んで歩き出す。
その背中を見つめ、私はソッと深呼吸した。

「貴島君」

私のちょっと緊張した声に貴島君はゆっくり振り返る。
視線が合い、貴島君は黙って私の言葉を待つ。

「今日はとても楽しかった。遊園地なんて久しぶりだし、凄く笑ったと思う」
「うん……」
「貴島君は優しいし、気遣ってくれるし、一緒にいて一日があっという間だったよ」

でも…、でもね…。
私はそっと胸を押さえる。

「ずっとここに何かがひっかかるの……」

そう。貴島君と楽しく笑っていても、フッとした時に胸が苦しくなる。
他のことを考えている自分がいる。

「自分でもよくわからないんだけど……、貴島君と居てもこころの底は違うこと感じていて……」

なんて言っていいか言葉が見つからず唇を噛む。
そんな私に貴島君は一歩近寄る。

「……その引っ掛かっているものは俺じゃないの?」

真っすぐに聞かれて小さく頷く。
そう。この引っ掛かる何かは貴島君ではない。
これは……。

「春岡……とか?」

貴島君の低い声に、言葉が詰まる。
どう答えようか。そう考えたが、ここは素直に小さく頷いた。

「そっか……」
「……一週間、貴島君と居て楽しかったけど、貴島君と居れば居るほど気持ちが苦しくなって……。わからなくなることが多くなったの。貴島君と居ても、どうしても龍輝君を考えてしまうことが多かった」
「そう」

貴島君は静かに頷く。

「だから、ごめんなさい……。貴島君とはお付き合いは出来ません」
「それが答え?」

顔を上げずにコクンと頷く。
夕日が赤く眩しくて、頬がジリジリと赤くなる。
しばらくの間、黙っていた貴島君はハァと深くため息をついた。

「そんな気がしてた」
「貴島君……」
「だから無理矢理、一週間付き合ってもらったんだ。少しでも俺を見てくれるんじゃないかって、少しの期待と希望を持って」

貴島君は悲しげな顔で微笑む。

「俺だけを見てほしかった。でも松永さんが見ていたのは俺じゃなかった」

貴島君はハハハと渇いた笑い声を出す。

「本当は気が付いていたんだ。君が春岡ばかりを目で追っているって」
「えっ?」

龍輝君を目で追っていたのだろうか? 自分ではそんなつもりはなかったのだけれど。

「困らせるようなことして、ごめん。これからも良きクラスメイトとして付き合ってくれると嬉しい」
「それはもちろん」

でも……、と貴島君は私に一歩近寄る。

「春岡に勝ちたかった」
「勝つ……?」

うん、と貴島君は頷く。
勝つとはどういうことだろう。

「俺は春岡に何をやっても勝てない。模試も君も……。俺が欲しいものはみんな春岡が持っていくんだ」
「貴島君……」

切なそうな、悔しそうな表情で唇を噛む。
そして、今にも泣きそうな表情で私を見た。

「君を奪えたら良かったのに……」

そう呟くと、ソッと私の髪を撫でた。
その手が冷たくて、貴島君の悲しい気持ちが流れてきた。
すぐに答えを出さなかった私もいけなかった。一週間、貴島君の心を弄んでしまったに等しい。

「ごめんなさい」

私は頭を下げる。

「謝らないで。一週間、ありがとう。松永さん」
「私こそ、ありがとう」

ごめんなさい、貴島君。
気持ちに応えてあげられなくて。
ごめんなさい。
ありがとう。
こんな私を好きだと言ってくれて。
想ってくれて。
ありがとう。






< 59 / 84 >

この作品をシェア

pagetop