Sweet silent night
駅から自宅までは徒歩10分。
駅前のコンビニでビニール傘を買おうか迷うところだけど。
散々な目にあった私は冷静な思考も持てず、なによりも早く家に帰って落ち着きたい気持ちが最優先だった。
…もういいや、ここまできたら濡れて帰ろう。
そう思い、勢いをつけて走りだそうとした瞬間だった。
「傘ならお貸ししましょうか?」
後ろの方からやや高めの男性の声が聞こえた。
声のする方を見ると、やさしそうな笑顔のお兄さん。
背が高く、黒いトレンチコートがよく似合っている。
「…私に言ってます?」
ナンパなんだろうか。
声なんてかけられ慣れてないから、我ながら間抜けなことを口走ってしまった。
「はい。
半分でよければ、お貸ししますよ」
そう言って近づいてくると、彼は大きめの傘を開いてこちらに差し出した。