そして悪魔は二度微笑む【コラボ】
「生きて逃げ惑っているか、死んで海にでも浮いているか……、そんな所だろうな?」

「でしょうな……。娘がいた筈ですが……。いえ……、何でもありません。彼は、部下ではありましたがいい友人でした。知り合いを通じてICPO(国際刑事警察機構)にでも相談しますかな」

シュタイナー博士は立ち上がると、電話を置いてある方に歩き始める。その背中に彼女の言葉が飛んだ。

「ICPO何ぞに相談しても主権の問題で動けないのが落ちだ。私をわざわざ呼んだのは、テストの解答が欲しかった訳ではあるまい」

博士が振り返る。彼女の視線は怒る訳でもなく、微笑む訳でもなく、ただ静かに彼を射抜く。

「お願い出来ますか? 正直この様な事を頼めるのは貴女しかいない」

それで話は終わり。まるでそう示すかの様に彼女は立ち上がると踵を返す。

「待って下さい! この紙は? 暗号などが隠されているかも……」

「全て暗記したよ、シュタイナー博士。それにその紙にはインク以外の薬品は使われていない」

愕然とする博士に追い討ちを掛ける様に彼女は言い放つ。

「彼の情報はメールでくれ。後……、そうだな君の友人を連れて来たら、先程のブレンドの仕方を教えてくれ」

「……お願いします」

博士が頭を下げる。それを見計らったように、彼女は背中を向けたまま片手をあげた。

「科学者の不始末は、科学者がつける。ただそれだけだよ」

そして扉が閉じる音だけが部屋に響いた。
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