コーヒー溺路線
「それじゃあマスター、私は帰ります」
「ああ、またおいで」
「コーヒーありがとうございました」
彩子は小さく手を振るとそのままコーヒーショップを出た。
それからようやくしてマスターは大きく深い溜め息を吐いた。
「富田さんっ」
急に彩子は誰かに呼ばれ、慌てて振り向くとそこには須川俊平がいた。
「須川さん。お疲れ様です」
「お疲れ様。驚きました、急にここから出てきたのが富田さんだなんて」
本物の偶然だった。
あまりの驚きに俊平は上手く話すことができない。冷や汗までもかいている。
そんな俊平に彩子は不思議そうにし、足を進めた。
「新しい部署はどうですか」
「良い先輩ばかりですよ。コーヒーも好き勝手にいれることができるし」
「うちの部署でも富田さんのコーヒーは好評でした。今はそれが飲めないから残念です」
嬉しいです、と彩子は言いながら微笑んだ。俊平は咄嗟に話題を出して良かったと思った。
きっと普段の臆病な俊平ではこれ程までに行動することは無理だろう。
先輩の和人に喝を入れられたからだろう。
「富田さんは駅まで徒歩ですか?」
「はい。毎日電車です」
「僕もです。車にしようと思っているんですけどね、免許もあるし」
「そうなんですか」
話しかけてみると意外と話が弾むもので、彩子は一所懸命に話してくる俊平にも好感を持つことができた。
俊平は彩子と沢山話すことができ、有頂天になっている。