コーヒー溺路線
「ふうん。富田さんはあの辺に住んでいるんですか」
「そうなんですよ。あっ、須川さんは何番のホームですか」
話をしていると直ぐに駅に到着し、俊平は少し物悲しい顔になった。
彩子はそれに気が付かないまま時刻表を見ていた。
「僕は七番です」
「残念、私は三番です。ここでお別れですね」
俊平はそうですねと頷きながら、しかし今日は彩子と沢山話すことができたと至って前向きに考えることができた。
俊平が自分にとってそれが大きな進歩であることは自分が一番よく解っているのだ。
「沢山お話できて楽しかったです。それじゃあ失礼します」
彩子がいくらか明るい声で言い、頭を下げた。こんなにじっくりと話すのは今日が初めてだとお互い解っていたからだ。
彩子は電車を利用する時、彩子が勤務する社と鉄道会社とが通じて給付される定期券を使用している。
その定期券をおもむろに鞄から取り出し、彩子は改札を通った。
「富田さんっ、少し待っていて下さい」
急に呼ばれて振り返った彩子は不思議そうにしていた。
俊平はスラックスのポケットから財布を出して先程聞いた彩子の下車駅までの切符を買った。
それから急いで改札を通り、改札の向こう側で立ったままの彩子の元に駆け寄った。
「どうしたんですか?」
「夜道は危ないです、僕が送りますから」
息を急きながら駆け寄ってきた俊平を最初は驚いて見ていたが、それを解した彩子は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
拒否しなかった彩子に俊平も嬉しくなり、二人は三番ホームで電車を待った。