コーヒー溺路線
 

「俊平」
 


 
ひとしきり泣いて今はもう大人しくなった俊平は未だ膝を抱えていた。
時折鼻を啜る音がするので寝てしまった訳ではないらしい。
 

和人は目を伏せたまま俊平に話し掛けた。
 


 
「俊平」
 

 
「……はい」
 

 
「嫌われても、好きなんだろう」
 

 
「……」
 

 
「お前は、頑張っただろう。あの内気で人見知りの激しいお前が」
 


 
その和人の声が優し過ぎて、俊平は膝を抱える腕に強い力が入った。
腕にはこれでもかという程に力が入るのに、肩の震えを止めることができない。
 


 
「それでも後悔をしているなら、お前に努力をしろと無理を言った俺が悪いよな。本当に悪かった」
 

 
「……」
 

 
「俺がお前に無理強いをさせたんだ」
 


 
和人の眉間に皺が寄る。
俊平が鼻を啜る音だけが響いた。テレビから聞こえるバラエティー番組の賑やかな音は最早無に等しい。
 


 
「叶わない恋だということは判っていたので、嫌われたことは正直きついけど大丈夫です……」
 

 
「……」
 

 
「和人先輩がいてくれて良かった」
 


 
俊平はようやく顔を上げて、いつものように遠慮がちに笑ってみせた。
 

暫くして俊平は泣き疲れたのか眠ってしまった。そんな俊平に薄めの布団をかけると、和人は腰を上げて疾うに空になったコーヒーカップとマグカップを流しに持っていった。
 

そうして冷蔵庫から冷やした缶ビールを取り出し、再び硝子テーブルの前に腰を下ろすとプルタブを押し開けてグビグビと飲んだ。
和人が毎週見ているというドラマが間もなく終わる頃だった。
 

抜かりはない。ちゃんとビデオテープに録画予約をしてある。
 


 
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