コーヒー溺路線
更に続ける俊平は次第に早口になる。
「そうしたらマスターと呼ばれた男性に言われました。彩子さんが藤山松太郎を好きだということは君も知っているだろうって」
最後の方の言葉が震えたのが和人にも分かった。和人はおもむろに伏せていた目を開け、俊平を下から見上げるとぎょっとした。
俊平は片足の膝を抱えるようにして嗚咽を漏らしている。撫で肩と膝を抱える腕とが震えているのが和人に分かる。
和人は再び目を伏せた。
「でも藤山は婚約をするんだ、捨てられたんじゃないかと言いました。よく考えたら俺最低ですよね、好きな人をこんなにも傷付けているんだ」
俊平は深い自己嫌悪に陥り、伏せていた顔を上げ力無く視線は宙を舞っていた。
和人は相変わらずベッドに背をもたれて腕を組み、目を伏せている。
「するとマスターが言うんです。捨てられたんじゃあない。彩子さんはあの店で藤山を待っているのだと、藤山は彩子さんを迎えにくる為に頑張っているのだと。俺が入る隙間なんて元からなかったのに」
顔を上げたまま話していたので、俊平の目から零れ落ちた一滴の涙は重力に逆らうこともなく頬を伝った。
一滴だった涙も大きな粒となってぼろりぼろりと幾度も零れ落ちていった。
「あの頃のように見ているだけなら、せめて嫌われはしなかったのに」
それを最後に俊平は再び膝を抱える腕に顔を擦りつけた。
和人はコーヒーを飲んだ。コーヒーは生温くなって更に不味くなっていた。