コーヒー溺路線
 

「しかし嬉しいな、彩子ちゃんにまたボーイフレンドができて」
 

 
「違うって言ってるのに」
 

 
「そんな関係じゃないですって」
 


 
先程からマスターと彩子の会話に混ざったりしている。マスターは彩子が恋人を連れて来たのだと勘違いしているらしい。
 


 
「そうだ彩子ちゃん、新しい豆が入ったんだ。今からいれるよ」
 

 
「本当に?嬉しい」
 


 
彩子がにこりと笑う。マスターも優しく微笑んでコーヒーカップが並ぶ棚に足を向けた。
 


 
「良いお店でしょう、私、ここには大学時代から通っているんです」
 

 
「そんなに長くか、マスターと仲良しのようだね」
 

 
「マスターは私の一番の理解者です」
 


 
まるで兄を慕うかのように彩子は微笑む。また松太郎が彩子とコーヒーについて話していると、マスターがコーヒーカップとマグカップを持って現れた。
 

どうやらこの店も彩子がマグカップでコーヒーを飲むというこだわりが染み付いているらしい。
コーヒーを受け取り、一口飲んでこれも旨いなと松太郎が思っていると、隣りの彩子が声を上げた。
 


 
「マスター、それは何?」
 


 
マスターは洒落た小さな冷蔵庫から何かが乗った皿を取り出し、ケーキ皿を二枚出した。
 


 
「さあ、彩子ちゃんの誕生日だからこれはプレゼントだ。ケーキもどうぞ」
 

 
「マスター!覚えていてくれたのね、嬉しい」
 

 
「毎年のことだからな。久しぶりに今年は当日にケーキを出せたよ、用意をしておいて良かった」
 


 
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