コーヒー溺路線
タクシーに乗り込むと、彩子は靖彦のマンションの場所を運転手に伝えた。運転手は比較的安全運転で車を進める。
「千二百六十円です」
「ありがとうございました」
無口で少し無愛想な運転手だったが、靖彦のマンションのある辺りまで行く最短の道を知っているあたり、この辺は大方この運転手の庭なのだろう。
そんな運転手に彩子は気分が良くなり、マンションに入った。最近ではマンションの住人とも少しずつ面識ができて、彩子は良好な隣人関係を保っている。
エレベーターに乗り、四階のボタンを押した。靖彦と住む部屋は四階の一番端の角部屋でなかなか広い。
エレベーターが四階に着くと軽い足取りで彩子は部屋まで向かった。靖彦が帰ってきているかもしれないので、扉の取手に手を掛けたがまだ靖彦は帰って来ていないらしい。
静かに鍵を取り出して鍵を開け、部屋の中に入りまた鍵を閉めた。これも意外と心配性らしい靖彦に言われていることだ。
彩子は部屋に入ってからまず電気を点け、出窓などの鍵がかかっていることを確認してカーテンを閉めた。それから部屋着に着替え、コーヒーをいれることにした。