二 億 円



契約書を書き、印を押し、再度契約内容を確認した後、貴女の母親に話をしました。



泣いていました。



ポロポロと汚れた涙を流しながら、「やっと解放される。普通の生活になれる。」とぼやいていました。




私が帰るとき、お人形さんはお部屋から出てきてしまいましたね。



「ひなた!部屋から出ては駄目だと「お父さんこの人誰?お兄ちゃん?」」



唖然としました。雅樹のことだけでなく、私のことも忘れてしまっていたなんて。



尚哉さんはさぞや辛かったでしょうね。


雅樹を殺した当の本人は全く記憶が無いのですから。


どんなに責めても何も分からないのですから。




「「お兄ちゃんは?お兄ちゃんはどこにいったの?───君はお兄ちゃんじゃないの?ねえ、ねえお父さ「静かにしろ!!雅樹はお前のせいでっ…!!」」



「尚哉さん、落ち着いて下さい。それは禁句(タブー)ですよ。」



この時思い出す必要はありませんでした。

純粋に、ただそのままの姿、心で育ってもらわなければ意味が無い。


「っ……!!君だって、君だって雅樹を殺したのと変わらな「尚哉さーん。あまり余計な口叩くと契約は取り消し、ですよ?」」




面白いことを言うなあ。


私が雅樹に何かしましたか?
雅樹の唯一の親友である私が、何かしたのですか?



ただ彼の話を聞きながら、心の中で蔑んでいただけなのに。



それとも私に、雅樹がしていた性的虐待を止めて欲しかったのでしょうか?



今考えても、この時の尚哉さんの言葉は理解できません。



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