溺愛プリンス


せっかくこれで、篤さんにお礼が出来ると思ったのにな。


バイトを終えた帰り道。
スマホを取り出して、茜に電話をかけた。



「もしもし茜?」

『どうしたの?あ、王子と仲直りした?』

「その話じゃなくて……。あのさ、前に茜がくれた福引の券で、温泉旅行が当たったんだけど……」

『え、うそ!すごーい!そうだ、それに王子を誘いなよ』


……はっ!!?

茜がとんでもないことを!



「ち、違う違う! あたしは茜を誘おうと……」

『あたしはいいから王子を誘いなって!
ちょうどいいじゃない。日本の文化を勉強に来てるんでしょ?だったら温泉、絶対興味あるって!』

「む、無理だよ!」

『無理じゃない!やるの!わかった?やるんだよ?』



ものすごい勢いでまくし立てられ、そのまま通話は切られてしまった。


「……」


虚しく響く電子音。
あたしはそれを聴きながら、呆然と立ち尽くしていた。


ハルを、温泉に誘う?
むりむりむり! 絶対に無理!


どうしよう……。



チケットを目の前にかざしてみる。
旅の日程は、9月。





「草津……か」



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