溺愛プリンス




悩んでるうちに、短い夏はあっという間にすぎ、残暑厳しい9月。
結局誰も誘えなかった旅行は、明日に迫っていた。





『温泉?どーしてもっと早く言ってくれなかったのよ』



スマホの向こう側で、恨めしそうな声がした。



「あたし、言ったよ?でもお母さん明日はお友達とランチ行く約束してるって、楽しみにしてたじゃない」


そう言うと、お母さんは『そうだけど』って言葉を濁した。


『でも、まさかひとりで行くなんて思わなかったんだもの。大丈夫なの?志穂』

「大丈夫だよ」


あたしがケラケラ笑ってそう言うと、お母さんはそう?と、ため息をこぼした。

心配症なんだから。


「じゃあ、切るよー?」


明日の準備しなくちゃだし。
そう思って、電話を切ろうとしたその時。

お母さんに、『志穂』と呼び止められた。



「なに?」

『テレビ、観てる?つけてみなさい、早く』

「えー?なんで?」



不思議に思いながらも言われたままにテレビをつけた。


いったい、なんだってのよ……。
うんざりしつつ目を向けた先。

そこには、最近見かけない、あの人が映っていた。




< 121 / 317 >

この作品をシェア

pagetop