溺愛プリンス
「ハルの生い立ちについては、きいてるの?」
「……えっと、あの…………少しは」
言っていいのかわからずに、曖昧に頷くとベスは「そう」と小さく言って話を続けた。
「腹違いの兄妹だって知って驚きはしたけど、それだけだった。でも、ハルはそうじゃなかったのよ」
そこまで言って、ベスは目を伏せた。
しばらくして、意を決したようにあたしを見てこう言った。
「それまで父親が誰かって知らされていなかった。
突然国王の息子ですって王家に連れて来られ、王位継承権まで託された。たった、10歳のハルに。
あたしは、それまでのハルを知らないけど……でも、ここへきて変わっていくハルを見ていた。
大人の中で、自分を殺し、諦め、流されていく兄を……。
周りの大人たちになんと言われようが、ハルは笑っていたわ。
――……そして、今のハルになった。
知識、教養、それに品格。 他の誰にも文句を言われないように、時には冷酷と言われるまでになった。
でもそれは……、あたしからしたら、ただの道化師よ」
「……道化師……?」
「……道化は、道化にしかすぎない。
笑顔の裏側はいつも泣いてる」
ベスはそう言って、トサッとソファの背に体を預けた。
笑顔の……裏側……。
本当の、ハル?