溺愛プリンス
「…………。わかった、今行く」
溜息とともに吐き出された言葉。
ハルは壁に手をついたまま一瞬不服そうにしたが、すぐに姿勢を正した。
その顔は、今あたしに見せていてくれたものじゃなくて。
テレビで観る、ハルの顔だ。
行っちゃうんだ……。
「…………」
て、ダメダメ。
フルフルと首を振る。
落ちてしまっていたマスクを拾おうと身をかがめた時、それをハルが先に拾い上げた。
あ……。
ハルはそのままあたしの頭の後ろに手を回す。
慣れた手つきで、マスクはあるべき場所に収まった。
グッと近くなった距離。
性懲りもなくドキドキしていると、喉の奥で笑う気配にチラリと視線を上げる。
狭くなった視界の中、ハルはおかしそうにあたしを見下ろしていた。
「リュンヌ・メゾン」
「え?」
キョトンと首を傾げる。
まるで内緒話するように耳元に唇を寄せると、
「”リュンヌ・メゾン”だ。終わったら、そこで逢おう」
そう言って、ふわりと微笑んだ。