溺愛プリンス


名残惜しそうに指先が頬を撫でる。
それからハルはパッと背を向けて、テラスから出ていった。


…………、……。


カツカツと靴音が遠くなり、あたしはやっと息をつく。



はあ……、ハルはずるいな……。
あたしをこんなにして、さっさと違う世界へ飛んで行ってしまうんだから。

火照ってしまった身体が恨めしい。


でも。

だけど……最後の、ハルの表情が、少しだけ引っかかる。





屋敷の中に消えた背中をいつまでも追いかけてると、しびれを切らしたように姿を見せたのはショーンさんだった。



「いつまでそうしてるおつもりですか」

「えっ、あ……ごめんなさい」


ショーンさん……。
あたしとハルの会話、聞いてたんだよね……。


あたし、ハルにものすごーく恥ずかしいことを……。
思い出したらいたたまれなくなって、たまらず俯いた。



「広間へお戻りください」

「え?」


広間?


「そろそろ、ベルト王がいらっしゃいます。
お顔を拝見していかれては?」

「…………」



ベルト王。

ハルの……お父さん。



「……、わかりました」



あたしはコクリとうなずくと、先を行くショーンさんについて広間へ向かった。






< 197 / 317 >

この作品をシェア

pagetop