溺愛プリンス
名残惜しそうに指先が頬を撫でる。
それからハルはパッと背を向けて、テラスから出ていった。
…………、……。
カツカツと靴音が遠くなり、あたしはやっと息をつく。
はあ……、ハルはずるいな……。
あたしをこんなにして、さっさと違う世界へ飛んで行ってしまうんだから。
火照ってしまった身体が恨めしい。
でも。
だけど……最後の、ハルの表情が、少しだけ引っかかる。
屋敷の中に消えた背中をいつまでも追いかけてると、しびれを切らしたように姿を見せたのはショーンさんだった。
「いつまでそうしてるおつもりですか」
「えっ、あ……ごめんなさい」
ショーンさん……。
あたしとハルの会話、聞いてたんだよね……。
あたし、ハルにものすごーく恥ずかしいことを……。
思い出したらいたたまれなくなって、たまらず俯いた。
「広間へお戻りください」
「え?」
広間?
「そろそろ、ベルト王がいらっしゃいます。
お顔を拝見していかれては?」
「…………」
ベルト王。
ハルの……お父さん。
「……、わかりました」
あたしはコクリとうなずくと、先を行くショーンさんについて広間へ向かった。