溺愛プリンス



台所には、すでにいい香りが漂っていた。

テーブルの上にはどっさりのソーセージや果物。
オーブンには火が入っていて、その中でこんがりとパンが焼き上がっていた。


わぁ……ここに入るの初めて……。


キョロキョロト辺りを見渡していると、目の前に瑞々しい林檎が差し出された。




「どうぞ」




見上げると、クロードさんがいて。
キレイな微笑みを湛えている。

そのアクアマリンの瞳の中に、ポカンとしたままの自分がいて。
なんだかいたたまれなくて、手元の林檎に視線を落とす。



「あ、ありがとうございます」



慌ててそれを受け取る。
真っ赤に熟れた林檎。
手にしただけで、甘い蜜の香りに包まれた。


思わず鼻に近づけたあたしに、クロードさんは静かに言った。





「志穂さまは、選択されたんですね」





え?




< 221 / 317 >

この作品をシェア

pagetop