Love Water―大人の味―
泣かないでいようとする方が無理だったのかもしれない。
本当は、声を上げて泣きたかったから。
さすがに、上司の前でわんわん泣くことは出来なかったけど、涙は止まらない。
むせび泣くあたしに、ガチャリと鍵が開く音がした。
たぶん、部長が部屋のドアを開けたのだろう。
部長、あたしと同じマンションだったんですね。
やっとまわり始めた頭で、ぼんやりと考える。
彼はあたしを置いて行くんだ。
……当たり前か。
こんな惨めな女と一緒にいるところを見られたら、桐生部長の評判が下がっちゃうもんね。
こんな女はさっさと置いてくのね。
また酔いが回って卑屈な考えが浮かんできた時、突然ふわりと持ち上がった身体。
なに、と思う前に呟かれる言葉。
「バック、ちゃんと持てよ」