Love Water―大人の味―
それでも、俯きがちになったあたしに後輩は目ざとく気づいた。
「雨衣さん……?」
笑わなきゃ、と思うのに、一度強張った顔はなかなかほぐれない。
そうね。
一昨日までなら、あたしも迷わず彼に連絡して迎えに来てもらっていたわ。
いつも優しい笑顔で「お待たせ」って言ってくれた彼。
こっちが呼び付けたのに、嫌な顔をしたことは一度もなかった。
甘えすぎてた、のかな。
彼と別れたのには、やはりあたしに非があったからだろう。
知らないうちに、彼に頼り過ぎていたのかもしれない。
「……じゃあ、お言葉に甘えて乗せてもらおうかな」
顔を上げながらそう言うと、驚いた矢野くんの顔。
何か言いたそうにわずかに開く口元。
しかし、結局にっこり微笑んで「今、車回します」とだけ言って駐車場に向かっていった。
何も問わなかった。
矢野くんは、あたしと彼の関係が壊れたことに気づいたのかな。