Love Water―大人の味―




彼のことを忘れたわけではない。



むしろ、今でもすごく悲しいし、どうしてっても思う。



楽しかった彼との思い出を思い出せば涙は溢れてくるし、何度も彼の携帯にメールをしようともした。



電話だって、そう。



だけど臆病なあたしは、着信拒否とかアドレスが変えられていたらって思うと、なかなか連絡できないでいた。



……こんなにも彼のことを思って、悲しいはずなのに、どうして。



他の男の人のことを考える余裕なんてないはずなのに、どうして。



触れられた唇が忘れられないのは……。






……どうしてこんなにも、桐生部長のことが気になるのだろう。



浮かんでは消え、また浮かんでは消える上司の姿。



いつからあたしは、こんなに軽い女になったのだろう。



彼氏と別れて4日で、他の男の人と待ち合わせをするほど。



「はぁ………」



ため息はとめどなく零れる。




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