Love Water―大人の味―
……やっぱり、断って帰ろう。
足元を見つめながら、そう考える。
どこに連れていくつもりかは知らないけど、わざわざ駅で待ち合わせをするくらいだ。
あたしも鈍くはない。
たぶん、時間帯からしても食事とかだろう。
部長は『上司命令』と言っていたけど、今のあたしはそれに逆らうべきだ。
丁重にお断りして帰ろう。
そもそも、上司と部下が……それも男と女の1対1でいるところを誰かに見られたら、誤解されそうだ。
それも、あの桐生部長だから。
会社の女子社員を敵に回したくはない。
彼だってあたしといるところを誰かに見られたら……困るはず。
あれこれと考えて、そうしようと顔を上げたら。
「お待たせ」
すぐ目の前に桐生部長がいて、その距離があまりにも近すぎたからびっくりして思わず後ずさった。