苦い舌と甘い指先
女子トイレ
『俺様の歌をきけぇえええええ!!!』
「キャーッ!ミツぅ!!」
………なんだ、このノリは。
「盛り上がってるねー」
「…………」
カラオケに入って早々、ミツと夏輝が、二つしかないリモコンをこぞって手に取り
我先にと好きな曲を入れ、あのノリへと至る。
ミツに先を越されてむくれていた夏輝だったが、ミツの入れた曲が自分の好きなアーティストの曲だったらしく、キャーとかワーとか騒ぎながらミツの歌声に聞き入っている様だった。
「…あたし、やっぱり帰ろうかな」
「何言ってるの?自分が来たいって言ったんでしょ」
「うるせぇ。お前らが付いてくるとは思わなかったんだよ」
「わー、何そのいらないおまけみたいな言い方ー」
「…つか、何でお前、あたしの隣に密着してるんだよ」
この騒ぎの中、いつもより少しだけ声量を上げるだけで会話ができるのは、歌が始まって早々に肥後があたしの隣に来たのが原因だった。
「だって、見張って無いと。絶対知らないうちに逃げるでしょ、キミ」
……何故バレた。
「…逃げねぇよ。あたしの事はほっといて、ホラ、次は夏輝の番だぞ。
崇める様に聞くが良い」
「ははっ…崇めるって……。嫌だよ」
「じゃあ普通に聞け」
「………だから、嫌だって」
は?何コイツ。頭おかしいー!
怪訝な顔で肥後を見ると
「嘘。冗談。…ちゃんと聞くよ」
って、笑って無い目で言っていた。