苦い舌と甘い指先
「…じゃ、行こっ!ミツを誘惑しちゃえー!!」
パッと顔を上げると、そこにはいつもの明るい夏輝がいて。
さっきまでの辛そうな表情は跡形もなく消えていた。
「……あのさ」
「なぁにー?」
あたしの腕を引く夏輝に声をかける。
「お前、少し言いたい事があるなら、もう少しはっきり言った方が良いぞ。
見てるこっちが辛くなる様な顔する位、人に気を遣ってんじゃねぇよ」
…後から考えてみても、なんであんな事を口走ったのか分からん。分からんが…
「そう…だね。……うん、ちゃんと言うよ…」
涙ぐんだ夏輝を見て、なんか罪悪感だけを感じた。
だってさ、分かんねぇじゃん。
コイツが気を遣ってるのは、他でも無いあたしで。
それが彼女なりの優しさで、みんなが笑って過ごせる為に自分が我慢してるからだなんて
恋愛経験も無く、女友達も居ないあたしには到底理解できるものじゃなくて。
これからずっとずっと後に、彼女が本当に思っていた事―――
この時の夏輝がどれだけ惨めな思いをしていたのかを知る事になった。
知らなかった。
肥後は、本当は----------………。