SWEET HOMES SWEET HEARTS
昼休み。男子は中学生らしくサッカーに興じ、女子は中学生らしく教室で噂話などに花を咲かせているだろう。だろう「推測」でしかないのは私が今現在校舎の裏側のところにある「秘密のスペース」一人の時間を楽しんでいるためである。
手には数日前から読み始めたホラー小説。ホラーは小説としてはいささか不完全ではないかとの感想を普段から持っていた私にはちょっとした衝撃を覚えるおもしろさであった。
「かぁ~暗いなぁ。」
「ひっ!」
意識を小説から現実にスライドさせ声がした前方向上方を見上げるとそこには金髪に青いTシャツの少年が座っていた。
「ハルカちゃん…」
妙に神妙な顔つきで話しかけてくる「江崎くん」。何だか無駄に緊張し、私も神妙に「何?」と聞き返す。
「パンツ見えてます。」
「えっ!」
素早くスカートを押さえつける…がよくよく考えてみれば彼のところから見えるわけがない。その証拠に彼はへらへらと軽佻浮薄に笑っていた
「あれ?それ…」
「あぁ・・・これ?普段あんまり読まないんだけどね、ホラーは。江崎君は読んだことあるの?」
「いや、ミキが読んでただけ。俺あんまホラーとか読まねぇし。」
そう言うと彼は制服の内ポケットからフィリップモリスを取り出した。
「煙草…吸うの?」
「うん。あっち向くから良いでしょ?」
「いや」とは言えない私は無言で肯定の意を示し再び活字に目を走らせた。しばし沈黙の時間が続いた。それは10分間ぐらいだったのかもしれないし、はたまた三十秒ぐらいだったのかもしれない。しかし、悪い気分ではなかった。何だか不思議とこのままでいたいと思えた。
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