ヌードなアタシ

思いもよらない展開で
突然の行動に驚いたアタシは
反射的に、にぎられた手を振り払って
身を引いた。

瞬くんは、驚いているアタシの顔を見て
悲しそうに笑った。



『ごめんね…勝手だよね。
でもね、今話した事がオレの偽りのない
本当の気持ちなんだ。

驚かすようなマネしてごめんね。
結構、切羽詰まってるみたいだよ、
はは…ヤバイね』


瞬くんは伝票を持って席を立った。


『返事待っているから…
こまちちゃんの気持ちが落ち着いて
会ってくれるようになるまで待つから』


そう言って、店を出て行った。


飲みかけの紅茶の氷が
グラスの中で溶けてカランと音をたてる。


緩やかな弦楽器を奏でる音が
店内を流れている。



…ざわついていない。

瞬くんの事を思う時
奈緒の姿を目にした時

アタシの胸は
さざ波で水面が震えるような
ざわつきを覚えていた。

気持ちを切り替えようとしても
べったりと離れなかった感情が
ウソのように消えてしまっている。

なんで…?

瞬くんの気持ちがアタシに戻って
安心したから?


…ううん、違う気がする。

この感覚は
満たされた幸福感では無い。


…わからない。

でも、
アタシの中のざわざわとした鈍い痛みは
間違いなく消えていた。


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