屍の孤島
やがて急な山道を登り詰めると、山の中腹付近の雑木林が拓けたちょっとしたスペースがあった。

そのスペースの真ん中に、苔むした古井戸があった。

釣瓶落としも何もない、煉瓦か石のブロックを積み上げられて作られた井戸。

一体いつから使用されていないのだろうか。

苔の繁殖具合から、相当な年月が経過しているように見受けられた。

その割には井戸に蓋がされている訳ではない。

普通使われていない井戸には、転落防止の為に蓋がされている筈だが…。

そこまで考えて、ふと。

梨紅は暗がりの中で目を凝らす。

地面に、井戸と同じく古びて黒ずんだ丸い木の板が無造作に投げ捨てられている。

大きさも井戸の入り口とほぼ一致する。

恐らくこれが井戸の蓋だろう。

…梨紅は悟る。

蓋がされていなかった訳ではない。

井戸水は使うなという島民達の掟を破り、誰かが蓋を外して勝手に井戸水を使用したのだ。

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