黄昏色に、さようなら。

脳裏にフラッシュバックする陰惨な光景に、心の中の何かが切れかけた、その時。


「……大丈夫。大丈夫だ」


すうっと、聞き覚えのある声が、耳にしみ込むように届いた。


優しい響きを持った低音の声音は、幼いころから聞きなれた、兄のような幼なじみの声に似ている。


……純、ちゃん?


「ああ、俺だ。俺がちゃんと側にいるから、何も心配するな」


「……っ……あぅ」


自分がどうなっているのか、父と母は無事なのか聞きたくて懸命に口を開くけど、やはり意味のある声にならない。


それでも尚声を上げようとすると、それを制止するように、フワリと額に温もりを感じた。


手だ。


大きな、純ちゃんの手?


『しゃべるな。心で思うだけでいい』


心……で?


『そうだ。思うだけで、俺には分かるから』


え?


言葉の意味が分からない。


『お前は今、ちょっとばかり大きなケガをしている。でも大丈夫。少し眠って目を覚ます頃には良くなっているから。だから、何も心配しないで、今は眠るんだ』


眠る?


『そう、眠るんだ』


耳に聞こえる『音声』ではなく、直接脳内に響いてくる不思議なその『心の声』はとても心地よくて、安心できて、


私は、すうっと、眠りの中へと引き込まれていった。

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