黄昏色に、さようなら。
うつら、うつらと、
夢と現実の狭間をたゆたいながら、私は純ちゃんの声を聞いていた。
「原口博士、お願いします。風花を助けてやって下さい」
波立つ感情を無理やり理性で抑え込んだような、純ちゃんの、微かに震えを含んだ低い声音が響く。
数泊の沈黙の後、
純ちゃんよりも大分年配の男性、
たぶん、年齢は四十歳そこそこ。
父と同世代くらいの男性の落ち着いた声が、躊躇いがちに応じた。
「しかし加瀬君、この新薬は動物実験が始まったばかりで、まだ人間に投与できる段階ではないんだ。
例え効果が現れたとしても、人体にどんな副作用が起こるのか予想がつかない。
そんな状態のものを、誰であれ投与するわけには……」
言いよどむ、博士と呼ばれた男性の言葉を咀嚼するような空白の時が流れた後、純ちゃんは再び口を開いた。
「それでも、助かる可能性が少しでもあるなら、試してやって下さい。
何も出来ないで後から後悔するような真似を、俺は、二度としたくないんです」
語尾の震えに、
淡々と語られる言葉の中に、大きくうねるような激しい感情の波が見えるような気がした。