黄昏色に、さようなら。
「今、鎮痛作用のある薬は使えない。
脳が痛みを認識することが、この薬が働き始めるスイッチになるんだ。
薬自体に痛みの元を探知させて、傷ついた個々の細胞を再生するためには、どうしても必要なことなんだ」
「薬が使えないなら、せめて俺の力で痛みを散らして――」
「それでは意味がないんだよ」
尚も食い下がる純ちゃんを諭すように、穏やかな声が説明を続ける。
「皮肉なことだが、薬が効き始めて痛みが和らいだ段階でしか鎮痛剤は投与できない。
この薬を使うならば、避けらないプロセスなんだ。
辛いだろうがもう少し、
もう少しだけこらえてくれ、加瀬君」
「……くそっ。こんな時に使えない力なんて!」
吐き捨てるように言い放った後、
『ごめん。今は何もしてやれない……頑張れ、風花。頑張ってくれっ』
そっと額に添えられた手の温もりと共に、純ちゃんの心の声が、ダイレクトに頭に響いてきた。
それと同時に、痛みがすうっと遠のいて、激痛は我慢できる範囲のものに落ち着いていく。
ああ、私、助かるんだ――。
心のどこかで漠然と、自分はたぶん死ぬのだろうと思っていた私は、この時初めて安堵の涙を流した。