黄昏色に、さようなら。

入院着なんかで、誰かに抱きかかえられるものじゃない。


特に今、私が着せられているのは、淡いブルーのワンピース型のもので、膝上くらいの長さしかない。


で、下はスースー、素足のまま。


これでいわゆる『お姫様抱っこ』をされているものだから、裾が腿上限界点までまくれ上がって、とんでもないことになっている。


言うまい。


言っちゃだめだ。


『そんなこと』知りませんと気付かないふりをして、さりげなくベッドに戻させ……、


否、戻して頂かなくては。


「じゅっ、純ちゃん、もうそろそろベッドに戻してもらえるかな? 少し、疲れちゃったみたいだから、あははは」


「ああ、大丈夫だ。そんなに重くないから、気にするな」


って、違ーう!


こんな至近距離で、耳元に囁かないでっ!


「そうじゃなくって――」


なんて理由をつければ、すんなり気付かれずに、戻してもらえるだろう? 


と、せわしなく考えを巡らせていたのに、、そんな私の苦労は、ニコやかに放たれたセリフによって木端微塵に吹き飛ばされた。


「せっかくいい眺めなのに、もったいないじゃないか」


げっ!? 


しっかり気付かれているっ!


み、見るなバカっ!


と、心で叫んで、速攻で裾を持ち上げようとするけど、なんだか両手にうまく力がはいらない。

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