黄昏色に、さようなら。
そりゃあ純ちゃんは、良子ちゃんに言われるまでもなく『女好き』で好みの子にはモーションかけまくりな所はあるけど、
私にはいつだって、楽しくて優しくて、頼りになる理想のお兄ちゃんだった。
こんなデリカシーのかけらも持っていないスットコドッコイとは全然違う!
「ふぅん。そっちの俺は意外と不器用なんだなぁ」
「ちょっ、ちょっと、勝手に心を読まないでよっ! マナー違反なんでしょっ!」
「だーかーらー、お前の思考ってダダもれなんだって。
読もうとしなくても全開で伝わってくるの。
もっとも、わざわざ力を使わなくても、表情を見てれば考えてることなんか、面白いくらいに丸わかりだけどなー」
むうっ。
何だか、ものすごくバカにされている気がする。
「丸わかりで悪かったわね。いいかげん、とっととベッドに戻してよっ」
「イヤだー」
「イヤだー、じゃないっ!」
語尾を伸ばすな、語尾を!
と、見た目は熱い抱擁を交わす恋人どうし、実際は只今絶賛決闘中な私たちの戦いに終止符を打ってくれたのは、突然上がったノック音だった。
スライドドアの向こうからペタペタサンダル履きで現れた痩せぎすの、メガネをかけた白衣姿の男性が、ニコニコ邪気のないエンゼル・スマイルで歩み寄ってくるのを呆然と見つめながら、
まるでイタズラを見つかった子供みたいに、純ちゃんと二人、同時にピキリと身を強張らす。
年のころは、たぶん四十代そこそこ。
「ずいぶん楽しそうだね。お邪魔してすまないが、診察を、させてもらえるかな?」
穏やかなその声は、夢うつつの中で聞いた命の恩人、『原口博士』のものだった。