黄昏色に、さようなら。
「良子ちゃんじゃないよ。風花ったらいきなり倒れるんだから。さすがのアタシもビビったわ。保健の先生は留守だし、どうしようかと思ったよ……」
そうだった。
トイレに顔を洗いに行こうとして、クラッと来たんだっけ。
「あはは……、ゴメンね。貧血かなぁ?」
あんなスペクタクルな現実が、あるわけないよ。
そう。
たぶんあれは、今までに見たドラマとか漫画の中身がミックスされてできた、ファンタジーな夢。
スーパー超能力者でお医者様な三つ年上の純ちゃんと、犬猿の仲の良子ちゃん、
それに、素敵な無自覚乙女キラーの原口博士。
自分の想像力の豊かさに、思わず苦笑い。
でも、そう安堵する心の片隅に、なぜだか言いようのない痛みが走った。
「大丈夫? 保健の先生、捜してこよっか?」
心配げな良子ちゃんの言葉に、ハッとして両腕を胸の前まで上げて、手をにぎにぎしてみると、ごく普通に動いた。
「ううん、もう平気。なんだか爆睡しちゃったね。今何時くらい?」
すっかり元に戻った体調を確かめながら、白いパイプベッドに身を起こして質問すると、良子ちゃんはキョトンと目を丸める。
「爆睡って、風花。倒れて保健室に運んでから、まだ五分も経っていないけど? ね、加瀬君?」
えっ、純ちゃん!?
「……ああ、そのくらいだな」
ベッドの足元側。
半分引かれたカーテンの陰から響いてきた、静かな低音ボイスに、ドキンと鼓動が跳ね上がった。