黄昏色に、さようなら。
「ここは……?」
駅からの直通バスに乗って、その場所に降り立った時、不思議な感覚にとらわれた。
県境にある、観光スポットでもあるこの森林公園の存在は、もちろん知っている。
でも、私はまだ一度も訪れたことが無い……、はずなのに。
なぜか、『懐かしい』と感じた。
「突っ立ってないで、いくぞ」
ツン、と純ちゃんに手を引かれて、機械的に歩き出す。
ここでは、純ちゃんも足を速めることはなく、私はようやく自分のペースで歩くことができて、周りの景色を見る余裕が生まれた。
澄んだ青空の下、
だいぶ秋めいて色付き始めた広葉樹林と深い色合いの針葉樹林の間を、くねくねと伸びている赤茶のレンガ敷きの歩道を、ゆっくりと進んでいく。
ユラユラと風にそよぐ、道際に咲きほこる色とりどりのコスモスの花。
秋の午後の日差しはとても穏やかで、優しくて。
たまに、楽しそうに歩く幼い子供連れの家族とすれ違ったりすると、『ああ、平和だなぁ』とか、なごんだりして。
こんな訳の分からない状況でなければ、どんなにか良いのにって思う。
それにしても、純ちゃんはどうしてここに私を連れて来たのだろう?
私の手を引き、少し前を歩く横顔からは、純ちゃんが何を考えているのか、全然読み取れない。
「……」
うーっ。
こんなの変だ。嫌だ。我慢の限界だ。
どうせ、これ以上に訳の分からない状況にはなるはずないんだから、聞いちゃえっ。
よしっ、行けっ!
「純ちゃん!」
重い優柔不断の鎧を脱ぎ捨てて、思い切って口を開いたのに。
ちょうど林と林の間にぽっかりと空いた、芝植えの広場の真ん中で、純ちゃんは足を止めて無造作に腰を下ろし、
手を繋がれたままの私は、その不意打ちの動きに付いていけずに『きゃっ』っと、小さな悲鳴を上げてステン! と尻もちをついてしまった。