黄昏色に、さようなら。
ストンと、
足元にカバンが落ちて、転がった。
な、なに……?
純ちゃんの右肩に、自分の左頬がぴったりと収まっている。
肩に、腰に、ガッチリと回された力強い腕の感触で、今自分が置かれている状況を否が応でも思い知らされる。
暴走し始めた鼓動と、一気に熱くなる頬。
や、やだっ!
「純ちゃ――、放して、放してよっ!」
戒めを解こうと必死にもがくけど、力で純ちゃんに敵うわけもなく、
肩と腰に回された両腕はビクリとも動かず、
でも、それ以上は力を込められることはなく、
すっぽりとホールドされた状態のまま、ただ動くことができない。
「純ちゃ――」
「風花、大丈夫だ。大丈夫……」
すうっと耳に届いたのは、感情に走ったようすなど微塵も見られない、とても穏やかな声音だった。
あの夢の中、
事故の怪我と見えない恐怖に、心が壊れかけていたあの時、
語りかけてくれた時と同じに、優しい響きを持った声が、静かに降り積もる。
「怖いことなんて何もない。俺は、お前が嫌がることは絶対しない」
まるで、幼い子供に語りかけるように、どこまでも慈愛に満ちたその声は、とても安心できて。
嘘は、言っていない――と思った。
「これが最後でいい。もうお前を煩わせるような真似は二度としない。だから、今だけ、信じてみてくれないか?」
最後? 二度としない?
その言葉にドキッとして、反射的に顔を上げると、真っ直ぐな眼差しがすぐ目の前にあった。