7つ真珠の首飾り
つい先刻、軽々しく手を伸ばした自分を思い出して血の気が引く。
もちろんティートは見越して即座に注意をしてくれたのだろうけれど。


「ティートは、そ、そんな頼りない海藻にくるんだだけで持って……怖くないの?」

「ああ、適当なのが他になくて。急いで陸へ上がってきたものだから。


これを今、臣下のみならず国民誰もが探し求めているんだ。
シェルライン家の家宝だとは知らずにね。

真珠のことはある種の伝説として、昔から国で言われてはいたんだけれど。


未だ嘗て誰も体験したことのない、他国からの支配、吸収。
隣国への全面降伏を、僕の国の誰もが恐れているんだ。


だけどね、シズ。
僕が本当に怖いのはこの真珠でも、自分の国が隣国に併合されることでもない。

自分たちの力で国を守ることを諦めた国民たちの、それでも消えることのない欲望の炎が恐ろしいんだ。


ほとんど伝説みたいなその力を、最終手段だとよくも簡単に見なしてしまえるものだ。

これが一国民の手に渡れば、国がどうとか、そんな話ではなくなってしまうだろう。

それほど崖っぷちの状況が各地で起こっていることはわかっているんだ。


隣国が併合を考えているのも尤もだと思うよ。
僕たちの国はもはや、周辺地域にとって危険因子でしかないんだ。



確かにこれは先々代の王のせいだと言えるだろう。

だけど彼を輩出した家系を崇めていたのは、他でもない、戦で害を被った民たちだ。

僕の国では毎年、王家と称されるいくつかの家系が、それに相応しいものであるかどうか吟味して投票する機会がある。

だけどそれを怠ったのは、今現在真珠を死に物狂いで求めている彼らであるということは明らかだ。



僕はあの国も、あの国の民も愛していた。

なのに、どうしてなんだろう。
今、国家レベルで起こっている未曾有の事態を引き起こすのに、自分たちも一役買っていたのだなどとは、彼らが微塵も思っていないのは、どうしてなんだろう――」
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