7つ真珠の首飾り
彼が背負っているものの大きさに、わたしは思わず息を呑んだ。

彼の言う「僕の国」を、ティート自身が既に受け入れられなくなっている。
それはどんなに辛いことなんだろう。

やっぱりわたしは想像力の乏しさを痛感せざるを得なかった。


「そして僕もまたそんな状況下で選ばれた君主に過ぎない」

「でもティートはそんな中で、冷静になれてるやない。
統治権を持つのに必要な力やとわたしは思う。

悪い為政者ゆうんはいつでもどこにもおるものやね。
わたしの国でも、この間異国との喧嘩が終わったばかりやわ。

それにその為政者を選ぶ機会というものもな、わたしの国の女の人は、つい最近勝ち取ったばかりなんよ。

ティートの国では、当たり前みたいにあったものやねんなあ」


わたしは少ない知識を総動員して、そう彼に伝える。

悪いのはティートの国ばっかりではない。
陸も海も変わらない。人間も人魚も変わらない。

生き物の根源的な欲望は、どこまでも絶えることがない。


国の一大事だからといって、もしも真珠を手に入れたのなら、きっとその生き物は個人の安全や平穏を望むだろう。

わたしの知り合いには、家のことを省みずに自分の夢を追って飛び出した人間もいる。

母親の手伝いもせずに夏中うつくしい生き物を追いかけた少女も知っている。


「……初めは、そんな風に、未知の国のことを知りたいだけだった」


ティートの口調が少しだけ変わった。


「あの嵐の日、幸運にも助かって、人間に出会って、話をして。

生活様式も全く異なった世界について、知りたいと思ったから。だからシズと話をするのが楽しかった。

だけど、今では……――」


ティートは口を噤む。

きっとわたしと同じなのだ、と思った。

二人揃った未来、を、考えることは、難し過ぎるのだ。
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