7つ真珠の首飾り
「そうだね。僕は降伏したことを、はっきりと全国民に伝えるつもりだ。
僕1人に、何万人もの恨みが降りかかってくることになろうとも。

その後玉座についていられるとは思えないけれど。
それでもどうにか、再建のためにできるだけのことをして、思い残すことなく、死のうと思っているよ」


言うまでもなく、それは全て海の世界でティートがおこなうことだ。

よく見知ったはずのその場所。
だけどわたしの知らない世界。


ティートと会えなくなるなんて嫌だった。当たり前だ。それならこれからわたしは、何をうつくしいと思って、何に憧れて生きていけばいいのだろう。
未知を肯定的に受け止めることも、きっと今後一切できなくなってしまうだろう。

ティートは既にわたしの中の世界で絶対的な地位を築いているというのに。



それでも。
その場で泣きわめいて抗議するほど、わたしは子供ではなかった。

受け入れたくない。だけど受け入れなければならない。

ティートがそれを望んでいるのだから。


死のうと思っている、なんて言葉をこんなにもあっさりと、既に避けることのできないこととして発している彼に、わたしが言える文句など、ひとつもないのだ。


「……わかった。大事に、持つから」

「ありがとう」


ティートはほっとした表情をして、真珠を彼とわたしの間の砂浜に置いた。


「洞くつに置いてある、僕が集めていたガラス瓶か何かを入れ物にして持って帰るといい。
いいかい、決して、中央の真珠に触ってはいけないよ。

もしシズがそんなことをしたら、僕はいつまでたっても海へ還れなくなってしまうかもしれないよ」

「どういうこと?」

「全ての生き物はね、みんな海から生まれて海に還るんだ。
だけど死んだらすぐに魂が海へ辿り着くとは限らない。
還ることができるまで、長い旅をすることがあるんだ。

そんな風に僕らの国では言われていて、僕はそれを信じているんだよ」


そしてティートは笑ってみせた。

かげりのない、そんな顔を、とても久々に見ることができた気がして、わたしはティートの言う通りにしようと心に決めた。


ティートが望むことなら、全て守ろう。
それ以外にできることはない。
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